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2008年6月 4日 (水)

祈りにも似た(柴崎友香「星のしるし」文學界6月号)Part.1

司会者「上半期ベストセラー(トーハン調べ)が発表されたんですが」

kenzee教授「もう一年の半分オワリかね」

司会者「一位はホームレス中学生です」

kenzee教授「はああ、あんなヨゴレ芸人に全文学者は負けてしまったワケだね」

司会者「そして10位にメイ「赤い糸precious」が!」

kenzee教授「reYって誰だよ! コイツの名前書くのにイチイチシフトキー押さなきゃならんのか」

司会者「でね、芥川賞候補の発表っていつでしたっけ?」

kenzee「上半期は例年7月の第一週だな」

司会者「ていうことは6月末までにこの半年分の主要作やっつけてkenzee賞候補を発表しないと芥川賞候補とカブしてると思われますよ」

kenzee「ホント、チンタラやってられないね。もう、往年の元気がでるテレビにおけるタケシのようにV観ながらジャンジャンコメントする方式でいかないと間に合いません」

司会者「磯崎さんのようにkenzee賞狙ってる作家もいますから」

kenzee教授「磯崎さんはそんなしょーもないもの狙ってないで芥川賞を狙うべきだと思うがね」

kenzee「つーかkenzee賞簡単に獲れますよ」

司会者「なにか傾向とかあるんですか」

kenzee「オレん家にお中元とか贈ってくれれば一発ですけど」

司会者「メチャメチャ不正じゃねーかよ!」

kenzee教授「汚辱にまみれとるじゃないか!」

司会者「ただれてるよ!」

kenzee「kenzee賞欲しいなあ、という作家さんいましたらプロフィール欄からボクにメールできますんで住所その他はそちらで」

kenzee教授「ワタシはエビスビールの詰め合わせがいいな」

司会者「真剣に選出してますから!」

kenzee教授「で、サッサといきたいこの時期に問題作をドロップしてくれたんだな、あの柴崎さんが」

司会者「柴崎友香「星のしるし」ですね」

kenzee教授「コレ、150枚くらいあんのかな? いつになく長めなんだがその文量に必然性がある、柴崎文学の集大成といっていい濃い内容だ。それでは梗概行こう。ファーストシーンはお正月。郊外のファミレスだ。果絵と皆子、カツオの3人で卓を囲んでいる。果絵と皆子は中学の同級生で親友だ。二人とも30歳を迎えようとしている。カツオは20歳の若者でお調子者でナゼか果絵の彼氏、朝陽の家に居ついている。元日の夜から高校の同級生の新築の家を訪ねた帰りだ。皆子は高校の同級生、岡ちゃんと結婚した。岡ちゃんは家業の工務店を継ぐのと結婚が同時だったせいか互いの親に責任を感じているようだった。果絵は結婚に至りそうな相手がいたがあきらめたようだ。ファミレスの別のテーブルでは占いに興じる女二人連れがいた。果絵の携帯が鳴る。母親からだった。祖父が急死したという。そのまま皆子の車で病院へ向かった。果絵は霊安室で初めて死と向かい合った。

 果絵の会社は設備工事を業務とする会社で、営業事務をしている。移転を真近に控えていて最近「副社長」という人物が親会社から出向してきていて、イヤな人物である。同僚の白井さんはキレまくっている。果絵は柿原さんからヒーリングカウンセラーを紹介される。

 果絵はなんとなく天王寺でバーゲンを覗いたが特になにも買うことはなくスタバに寄ってカフェラテを飲んでいた。後ろの席では女の子が50歳ぐらいのオッサンにスピリチュアル系の商品のねずみ講を勧誘しているようだ。だが、オッサンもただ騙されているのではないようだった。果絵は寄り道しないでサッサと帰ればよかったと思った。

 果絵は現在一人暮らしだ。実家の近くにワンルームを借りた。結婚資金をそのまま入居資金にした。土日は朝陽の家で過ごしている。今日は朝陽の家でカツオ、皆子、岡ちゃん、果絵、朝陽、そして朝陽の昔の彼女直美ちゃんが集まっておでんを囲んでいる。皆子の果絵もあまり酒を飲まなくなった。皆子が占いに行ったところ岡ちゃんとは合わないといわれ、落ち込んだという話を直美ちゃんにしたところ直美ちゃんは怒って別の占いを紹介してくれた」

司会者「この手のモブシーンはもう柴崎ワールドの真骨頂という感じですね。「きょうのできごと」あたりから連綿と続く会食シーン」

 kenzee教授「ま、あの頃に比べると登場人物の年齢が上がってきているのでダレ具合が味だがね。1月の最後の日曜日、果絵は柿原さんから紹介されたカウンセラーのところにやってきた。アキミ先生はいかにもなカウンセラーだ。1万5千円。果絵は言われるままに横になってカウンセリングを受けているうちに眠ってしまった」

司会者「女性向けのヒーリングとかカウンセリングってメチャ高いんですね」

 kenzee教授「ウム、おっぱいパブなら2回いける計算になる。だが、効果はあるようだ。つーか、ホントに軽いし! 果絵は体が軽くなったのを実感した。1万5千円だけのことはある。柿原さんにもさっそく報告した。

今度は直美ちゃんに教えてもらった占い師のところへ皆子と果絵は二人で行った。果絵はぎりぎりでやめた結婚について話した。親も納得していた相手だった。同じ職場で職場でも人気者だった。だが、果絵が結婚をやめたいと言い出したのは両家の顔合わせの食事をしたあとだった。そしてその会社も辞めたのだった。そして一人で生きていくのか、みんなに置いていかれるのではないかという不安を訴えた。占い師小夜子先生は答えた。納得いくまで考えていいんだよと。果絵はゆっくり成長するタイプなのだと。そして近くにいる人はそんな果絵のことをわかっているんだと」

司会者「槇原ノリユキみたいな答えですね。占いに高い金払わないでCD買ったほうが良かったんじゃないですか」

kenzee教授「キミはキミだから。世界にひとつだけの。迷い探し続けることが答えさ。そういえば槇原ってカウンセラー顔だよな。えーと、果絵の実家では四十九日の法要が行われました。親戚もたくさんやってきた。母親は朝陽とはどうなのか、皆子は子どもはできないのかとベタな質問をしてきた。

 果絵、皆子、カツオは近鉄電車に乗って石切へやってきた。カツオがUFOスポットがあると聞いてきたのだ。生駒山の麓にある石切は占いの聖地だ」

kenzee「ひとことイイッスか? ボク、この石切の山越えた隣の生駒ってトコ出身で近鉄奈良線でさんざんミナミまで通勤してました。で、石切という土地は非常にウサン臭さ満開のスピリチュアルスポットなんです」

kenzee教授「コレ、ディープだねえ。占いのデパートだな、コリャ。そして果絵は石切神社で鳥居と本殿の間の石畳を行ったり来たりしている何十人もの人々を見つける。「お百度を踏んでいるんだ」そんな真剣な人々を見て、「わたしが占い巡り状態になってるのなんか、ぺらぺらですかすかやなって思うわ」と皆子は言った。カツオがその辺で勝手に亀を捕まえて持ってきたので果絵と皆子は他人のふりをして逃げた。

 土曜の早朝、朝陽の家に行くと、カツオが失踪していた。置手紙があった。自分は御曹司だというホントかウソかわからない内容だった。

 会社の移転は5月の連休と決まった。朝陽が店長をやっているカフェの新しいバイトの女の子が二人、朝陽の家にやってきてすき焼きをやることになった。二人の女の子は(当然若者ですな)果絵が置きっぱなしにしている占い特集の雑誌を広げて恋愛コーナーなどでノリノリだった。

 果絵はワンルームの自室で目が覚めた。なにかが決定的に違うと感じた。宇宙人だと思った。カツオが言っていた宇宙人に支配されたのだと思った。テレビを点ければアナウンサーが白くてのっぺりした宇宙人にインタビューしていた。玄関で気配がした。宇宙人だ! そこで目が覚めた。当然夢だった。テレビを突けたらフツーに朝のワイドショーをやっていた。画面の時計は6時半になろうとしていた。そしてなんとなく外へ出た。

 近所の公園にたどり着くまで誰にも会わなかった。周りの建物に切り取られた空は雲ひとつない水色一色の空だった。子供たちが学校へ向かっていた。部活らしい高校生が自転車で通り過ぎた。そして自分と同じぐらいの年のOLさんも通った。誰も果絵を見なかった。会社へ行けば、柿原さんやキリちゃんに会える。家族もいる。朝陽にも会える。玉造には皆子と岡ちゃんがいる。カツオはどこにいるのかわからないけれどどこかにいる。祖父はいない。ふと果絵の瞼から涙がこぼれた。そして果絵は思った。「祈る」というのはこういう感覚かも知れない。そしてもっと太陽が高く昇って一日が始まってしまえばこの気持ちは消えてしまう。そんな気もした。果絵は公園をでて、ローソンに行き、牛乳とパンを買って帰った。

仕事を終えて実家に帰ってから朝陽に電話した。宇宙人の夢の話をした。「あれは怖い」

 徳島の祖母の見舞いから母が帰ってきた。母は荷物を居間に広げた。果絵は、実家に戻ろうかな、と母に告げた。振り向いた母の表情は笑っても怒ってもいなかった。そして、荷物をほったらかしたまま、シンクに少しだけあった食器を洗い始めた。

 朝の通勤電車のなかで、果絵は同じくらいの年の女性を見つけた。彼女はこちらを見ていたが自分を見ているのか後ろのガラス窓に映った彼女自身を見ているのか果絵にはわからなかった。(了)」

司会者「なんか、いままでの柴崎小説とは雰囲気が違いますね。なんか、翳りを帯びたというか」

kenzee「kenzee教授はどうせ「タダの更年期障害だろ」とか言って片付けるつもりでしょうがボクはこの「星のしるし」は稀に見る傑作だとおもいますよ!」

kenzee教授「オレまだなにも言ってないじゃないか!」

kenzee「この作品はこの10年の柴崎さんのキャリアの総決算と言っていいと思います。特に公園のシーンは重要で2000年代に書かれた現代小説のなかでも屈指の名シーンです! 先に結論を言ってしまうと、この作品で柴崎さんはあの、イケイケでノリノリの女子パワー全開の柴崎ワールドを葬ったんです。「星のしるし」は「祈り」にも似た葬送の歌なのです!」

kenzee教授「ずいぶん鼻息が荒いね。確かに「星のしるし」は今までの柴崎ワールドの延長戦上にある作品ではないようだ。30代の女性の生きにくさを描いた小説といえば中島たい子の「漢方小説」や木村紅美「風化する女」などが挙げられる。だが、柴崎友香のアプローチはそういったジャーナリスティックな視点で書かれた小説とは違う。従来の柴崎小説といえばもうフォーマットができていて、この人は自分が属する集団、社会的階層、早い話が中産階級の子女を代表して語るようなところがあった。柴崎小説はある程度裕福に育った人物しか登場しないんだ。そしてそれぞれの成長や小さな挫折や自己実現の過程などを全身に目がついてるかのような鋭い観察眼で描写していく。そしてドラマとしてのカタルシスの持って行きかたといえば、これはもう10年間、変わらずひとつしかない。つまり、近い世代の人間(女子)との感覚の共有、理解だ。いかに分かり合ってきたかという話しかないんだ柴崎ワールドは。そしてこれは柴崎氏自身が公言しているが柴崎ワールドは「家族を描かない、セックスを描かない」を信条としている。柴崎氏はこれを美意識だと考えているのかも知れないがワタシは欺瞞だと思ってたんだ」

kenzee「柴崎小説に登場する女子ってイメージ先行で生きてるような感じでしたからね。「フェラはイイけどクンニはイヤ!」みたいな」

司会者「さらに我々から付け足すなら「柴崎小説はカネの話をしない」

kenzee教授「ウン、柴崎小説はいかにも文化系女子の好きそうなテイストだけを編集して周到にウェルメイドに仕立てられた世界、という風に捉えていた。ワタシのようなオッサンはね。だが、柴崎氏自身が柴崎ワールドの住人ならば、つまり若いってことだけど、そういった世界観も説得力がある」

kenzee「でも柴崎さんはボクの1コ上でもう30代半ばなのです。そこで柴崎さんは今後どうキャリアを重ねていくのか非常に興味があったのです。このまま女子パワー全開柴崎ワールドを欺瞞に気付かないふりをして続けていくのか。それとも、柴崎ワールドの先になにがあるのか、30代女性のリアリティを追求していくのか」

kenzee教授「ワタシは柴崎さんが柴崎ワールドをエンエンと続けていくことを否定はしていなかった。「それが柴崎商売だ、文句あるか」というのも作家としての生きかただと思う。演歌歌手だって10代のころのヒット曲を後生大事に抱えてエイギョー回りするんだ。そういった作家人生を否定しない。だが、柴崎さんは柴崎さん自身リアリティを感じられなくなった柴崎ワールドを祈るような視線で葬ることを決意したのだ。やっぱり柴崎友香は純文学作家だったんだよ。ナツメロ歌手じゃなかったのだ。ロックンローラーだったのだ」

kenzee「柴崎ワールドは暗黙の了解として「女子の理想の人生モデル」に支えられた世界だったと言えます。「女の幸せ」ってヤツですね。そこにゴールが設定されていて、その過程における「成長」であり、「自己実現」だったんですね。果絵も当然その人生モデルを頼りに20代を生きてきたハズです。だが、この小説ではイキナリ果絵は結婚に失敗している。そして果絵は今まで設定してきた人生モデルそのものをリセットしなければならない状況に置かれている。これは「柴崎ワールド」に初めて柴崎氏自身の批評の目が向けられた作品です。「この柴崎ワールドはホントにリアルなのか?」と」

kenzee教授「星のしるし」はいろんな切り口からくっちゃべるポイントがある。柴崎さんが属する社会的階層が現在抱えている問題。女性とスピリチュアル、またカツオとの関係に現れているが、若い世代との断絶。かつて柴崎ワールドの登場人物といえばカツオぐらいの年の子だったんだ。あるいは朝陽のカフェの新しいバイトの女の子。だが、もうこの子たちの等身大の視点には立てないんだ。当たり前だ柴崎さんもう34歳だからね。モチロン柴崎さんの観察力と取材力と技術力をもってすれば今の20歳の子たち視点の「きょうのできごとパート2」ぐらい書けたかも知れない。でもそれをしないのが柴崎さんが純文学作家たる由縁だ。この人は自分が属する世代、階層、集団を記録していくことを作家としての一生のテーマとしているんだろうと思う」

kenzee「公園のシーンのどこが重要なのかを考えるためにももうちょっとやってみましょうか」

司会者「数回にわけてやらないと語りきれないですね」

kenzee教授「マイッタね。テンパってるのに」

 

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コメント

150枚くらいかな、と書いておられますが、目次によると、190枚のようですね。

投稿: Lydw | 2008年6月 6日 (金) 12時59分

ホントだ!目次はチェキってなかったあ。やっぱイチオシってことなのかな。どうもありがとうございました。

投稿: kenzee | 2008年6月 6日 (金) 22時53分

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