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もう若者、レンタルしないの?(すごいセコイ話ありマス)

kenzee「皆さん、どんな手段で音楽を入手していますか? ボクは今でもレンタルCDという手段が7割以上を占めます。iTunesとか音楽配信も利用しますが、それは洋楽の新譜モノに限った話。さすがに発売から1年は待てないからネ。そもそも昔からボク、新譜にさほど執着ないんダ。昔CD屋だったのにネ」

司会者「コラコラそこの音楽評論家」

kenzee「今の若い子はYou Tubeとかニコ動とかネットラジオで満足してるそうだけど、ボクはこの2015年の今でもCDからリッピングしたmp3音源でないと「音楽を手に入れた」って気がしないんだよ。完全に趣味の話だけど、「CDからリッピングする」ていうひと手間ないと納得いかないんだ。だから配信すら「手に入れた」感が今でも希薄なのだよね。よく作家で「小説は手書きに限る。原稿用紙の升目をうめてこそ人間の文学なのだ」的なこという人、今でもいるじゃない。ほとんどそれに近い境地だよね。「音楽とはCDからリッピングした音源のことであり、他の手段は邪道なのだ」と。今や結構なメジャーアーティストでも配信のみの音源とか多いのに」

司会者「それにリッピングって結構手間かかるでしょ。マトモな社会人てリッピングするヒマもないのが普通だよね」

kenzee「その通り。ボクにとってCDのリッピングとは一日仕事なのだ。年末のTBSラジオLife大忘年会においてあの津田大介さんが「今までCD購入のリッピング派だったが、2014年は完全にアマゾンmp3の配信派に切り替わったそうだ。ナゼなら「リッピングの手間ウゼー」から」とおっしゃっていた」

司会者「iTunesじゃないんだ」

kenzee「フッフッフ、私はそれを聴いてチンコで茶を沸かしそうになったものさ。「リッピングがウザくて音楽聴きが務まるものか」とね。どんなカッタルい作業も計画的にこなせば可能なものだ。ボクは毎月、「今日は一日リッピングの日」というのを決める。そしてその日めがけて複数のレンタル店舗から20枚~30枚ぐらいCDアルバムを借り集めておくのだ。そしてリッピングデーは朝からリッピングに勤しむ。外にもでかけない。食糧も前の晩から用意しておく。サンドイッチとかオニギリとかチューハイとか。とにかくボクのリッピング作業は時間がかかる。というのもボクはネットから自動的に取得される楽曲データ大嫌い派だからだ。Glacenoteとかいう会社から取得される楽曲データ。ボクはこれをほとんど自分で手打ちで入力しなおすのだ。たとえばアーティスト名。ボクは単語の頭大文字であとは小文字派なのだ。無論半角でないと認めない。なので「THE BEATLES」などと自動取得された時点で抹消! 誰がなんと言おうとビートルズは「The Beatles」でなければ認めん。全角などもってのほか。日本人アーティストも同様。「山下 達郎」と、姓と名の間に半角スペースを開けてくるデータがあるが、笑止千万。「山下達郎」でなくてはならない。あと、誰某featuringナニガシ、といった名義の楽曲のアーティスト名をそのままそのように表記してしまうデータなど死あるのみ。「featuringナニガシ」は絶対に楽曲名に付け足さなくてはならない。ナゼならiTunesやXアプリといった管理ソフトは「A featuring B」と「A」は別アーティストと認識してしまうからだ。あとGlacenoteには楽曲のあとにイチイチ「日本テレビ系ドラマ「ドータラの愛」主題歌」などといった余計な付帯データが記されていることがある。これも消去」

司会者「著書もある作家がモノスゴイ細かいことゴチャゴチャ言うブログです」

kenzee「あとこれはボクの個人的な管理法なのだけど、楽曲名の最後に発表年を付け加えるのね。「クリスマス・イブ('83)」といった具合に。これが何の役に立つかというと、「('83)」と検索をかけると1983年に発表された楽曲だけがドドーンとリストされるのだ。これはなかなかの機能だと自負している。画像も配信なら自動的についてくるがリッピングだと自分で画像を探して貼り付けていくことになる。こんなチマチマした作業がボク、大好きなんですヨ! これをたとえば20枚やるとしよう。丸一日かかります。ホントに」

司会者「もっと有意義な休日の使い方もあると思うよ」

kenzee「これが、ナント! 最近ツラいのだ。やっぱりトシかなあ。で、翌日ポストにバーン、返却した時の充実感トカ! もひとつセコイ話すると再発のジャズとかで結構細かいライナーついてるCDとかあるじゃないですカー。ああいうのも全部スマホで写メとって保管してるからね。ここまでやって「アー、音楽を手に入れたなア」と思えるのだね。で、言いたいのはそんなことじゃなくてこの2,3年の間に近所のツタヤがバカバカ閉店しているのだ。ちょっと数えただけで4店舗閉店している。特に駅前系がヒドい。ロードサイド系はなんとか生き残っているがこれからどうなるものやら」

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司会者「日本のレンタル文化が」

kenzee「イヤ、オレの音楽生活が」

司会者「知らないよ!」

kenzee「これは奈良県北部の地方のみの話ではない。たとえばグリコの看板でオナジミの大阪・戎橋にあるツタヤEBISUBASHIはDVDレンタル部門を残し、CDレンタル部門を廃止した。その後、そのフロアにはコスメショップが入りました。コレ、完全にツタヤさん、CDレンタル切りにかかってるのでは? コレ、思いの外、重大な問題ですよ。たとえば近鉄富雄駅のツタヤも閉店し、その場所は今や完全に更地となっている。この富雄ツタヤは20年ぐらい前にできたと記憶しているが、その頃には個人営業のレンタル屋やCD屋さんが3~4件あったと思う。これらはツタヤという大資本の黒船到来によってすべて潰えた。ま、それはしょうがない。で、その肝心の大資本が今や更地なのだ。つまり、富雄近辺の中高生や学生が安価に音楽を手に入れる手段がまったく消滅したのだ。ボクが驚いているのは「それでイマドキの若者はさほど困っていない」という事実だ」

司会者「学生が駅前でCDもDVDも借りれなくても生活が成立するってのは文化的に正しいのかって思いますね」

kenzee「こういう事態が全国の地方で起こっていると思うんだ。ボクは音楽データを「所有」していないと不安なのだが、CDショップはおろか、レンタル屋までなくなるなんて、一体音楽生活はどうなるのかね? これから音楽は「アクセス権ビジネス」に以降すると言われてるけど、ホントかね? ボクはクラウドというのがどうも納得いかないのだ。昔、ひろゆきが言ってた「常にネットに確実に繋がれる、なんて保証ないじゃないですか」という言葉は結構正しいと思ってるんだ」

司会者「本屋もツタヤもない街がこれから普通になっていくのかな」

kenzee「音楽聴きの大先輩、田中康夫さんも最新刊、「33年後のなんとなく、クリスタル」でチョコっと音楽文化について憂えているよ。無論、ボクみたいにレンタル屋とかブックオフとかの話じゃなくてもっとオシャレな感じでネ」

 ネットラジオ局のURLを記したメモを嵯峨君が届けてくれた。受け取りながら、ふと考える。いつ頃から僕は、こうした音楽をあまり耳にしなくなってしまったのだろうと。九〇年代に入るとアダルト・コンテンポラリー系のシンガー・ソングライターが”沈黙”し始め、これぞと思えるアルバムになかなか出会えなくなる。パイド・パイパーハウスが店じまいした後、ディスコやクラブのDJ御用達だった六本木のウィナーズで僕が輸入盤を買い求めていたブラック・コンテンポラリー系も、二十一世紀を迎える前に下火となってしまう。そのAORが再評価されているのは、ある種の懐かしさからだろうか。いや、それだけではない気もする。(中略)けれども音楽への接し方はまるで異なってしまった。レコード店改めCDショップに足を運ばずとも今やネット上で、アルバムに収録されている全曲の冒頭部分が試聴可能。その中から気に入った曲だけスマホにダウンロードして、イヤフォンで聴いているのだもの。(中略)人と人とのコミュニケーションの触媒としての音楽は、逆にコミュニケーションを遮断するような装置へと、いつの間にか変容してしまったのかもしれない。(田中康夫「33年後のなんとなく、クリスタル(河出書房新社)」)

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これは表参道の美容室に訪れた主人公、ヤスオがお店の若い美容師の男性に流れているAOR専門のインターネットラジオのURLを教えてもらうシーンだ。この記述の興味深いところは田中康夫は80年代のブラコンまでは熱心に追いかけていたようだが、90年代以降のヒップホップカルチャーを通過したR&B、つまりメアリーJブライジとかブライアン・マックナイトとかR.ケリーとかディアンジェロのようなブラックミュージックには興味がなかったらしいところだ。ここに「クリスタル」の分水嶺があるように思う。たとえば田中康夫はフリーソウルのコンピレーション盤などをどのように捉えてたのだろう。ライナーに何度も「クリスタルな感じ」とか「アーベインな感じ」と頻出するあのシリーズを知らなかったわけはあるまい。ただし、この90年代とは田中氏にとって震災ボランティアの時代なのであって、音楽どころではなかったのかもしれない。ともあれ、ボクも苦労してリッピングしてるワリにネットラジオはよく聴くよ。この心理も自分でよくわからない。昔、ピチカート小西さんのエッセイで「こんなに大量にレコードを買いまくっているのに家にいるとJ-WAVEを聴いてしまう」とあった。今はネットラジオのアプリも豊富だし、局の数もスゴイことになっている。でも! CDから落とす、という中学生ぐらいからやっている、四半世紀にナンナンとするこの習慣だけはオイソレをやめられないんだなア。で、ホントはこの「33年後」の話をもっとしようと思っていて、フリのつもりだったんだけど意外と長くなってしまったので、次回にまわそう。次は田中先生の「33年後のなんとなく、クリスタル」評だヨ!」

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コメント

リッピングのこだわり、すごく共感しました。
手作業でリッピングしたものじゃないと聴いてても音楽に集中できないんですよね。
アーティスト名も、マイブラみたいに小文字表記大好きな連中には随分悩まされましたが、洋楽は頭大文字、邦楽は公式サイトやロゴなどで最も頻度の高い表記に従うってことで落ち着いてます(ミッシェルみたいに表記にブレがあるとすごく困ります)。
まあそういうことで無駄に悩んだり試行錯誤してる時間も楽しいんですけどね。

投稿: コムラ | 2015年2月 9日 (月) 09時15分

取得したタイトルの半角全角の違いは気になりますもんね。
あとAmazonから自動取得すると思われるジャケット画像が、iTunesが当たり前になる以前の作品だとスキャンも多く、正方形に帯の部分まで詰められて縦長になってたりして…
それ以前に解像度が低くて今のスマホやプレイヤーだとボケボケという…

投稿: 紅 | 2015年2月 9日 (月) 20時47分

コムラさん。
マイブラ問題なんてまだかわいい方です。「マイブラだけ特例措置でmy bloody valentine統一」って決めてしまえばいいのですから。たとえばceroはceroですし。世の中にはもっと複雑な問題が山積しております。たとえばTM NetworkとTMNは完全に別バンドと認識してしまうが、自分としてはどうなのか?という問いを突きつけられることもある。こんなとき、本当に別物と考える方法もありますし、「オマエラがTMNと名乗ろうがオレにとってはオマエラのやってること全部TM Networkなんジャイ!」と一方的に決め付けて管理するという方法もある。trfはある時期からオフィシャルに表記をTRFに変えたそうですが知らないふりする、とか。ていうかtrfなんか持ってないけど。あと、吉田拓郎とよしだたくろうは一方的に吉田拓郎で管理させていただきます措置とか。ヤング・ラスカルズとラスカルズ問題というのもある。一元化問題は難しいですナ。あと、ボク内にはカタカナ表記美意識問題とかある。たとえば早川義夫のジャックスを決して「Jacks」と表記したくないのである。同様にゴールデン・カップスはGolden Cupsではない。スパイダースも然り。でもシュガーベイブは「Sugar Babe」じゃないと納得いかない。でもムーンライダーズはMoonridersでは断じてない。でもサロン・ミュージックは「Salon Music」って表記してるなオレ。カシオペアはどんだけバカテクミュージックであっても「カシオペア」。これは譲れん。つうかカシオペア持ってないけど。電気グルーヴはもはや世間的には「Denki Groove」なのだと思うし、それがある意味正しいのだろうけど、あえて「電気グルーヴ」で統一している。でもUtadaを「宇多田ヒカル」として管理してしまっていいのだろうか。悩みは尽きない。

投稿: kenzee | 2015年2月 9日 (月) 21時46分

(続き)さらにVarious Artists問題というのもある。作曲家やプロデューサーでコンパイルしたようなベスト盤のようなアルバム。たとえば「いずみたく作品集~見上げてごらん夜の星を~」というCDがある。このCDは自分的に坂本九の歌やピンキラを聴きたくてレンタルしたのではない。自分的には「いずみたく」ありきなのだ。バート・バカラックBOXや筒美京平Hit Storyなども同様だ。主役が作家であった場合。各々のアーティスト名で登録してしまうと検索する時にイロイロ不都合が生じる。こういう時、ボクは迷わずアーティスト名自体を「いずみたく」とか「筒美京平」にしてしまう。その上で、楽曲名は「太陽がくれた季節(青い三角定規)('72)」とするのである。つまり、自分にとって「太陽がくれた季節」とは「いずみたくが、青い三角定規に提供した、「太陽がくれた季節(1972年作品)」という脳内フォルダ管理となっているのだ。とにかくいろんなズルな特例措置を作ることでなんとか管理しているのだ。最近、コンピ盤を借りるのが億劫だ。つい先週も細野晴臣「コチン・ムーン」を借りたら正式なアーティスト名が「細野晴臣と横尾忠則」となっていて発狂しそうになったが、音を聴いたら完全に細野さんの世界なのでアーティスト名「細野晴臣」とさせていただいた次第。横尾さんゴメン。しかしモノスゴクどうでもいい話でしたネ!

投稿: kenzee | 2015年2月 9日 (月) 22時14分

紅さん。
ホンット、ボクたちただ音楽が聴きたいだけなのになんでこんなチンケなことがイチイチ気になるんでしょうね。

投稿: kenzee | 2015年2月 9日 (月) 22時25分

iTunesStoreで買ったデータも打ち直しますわ。洋楽アーティストのカタカナ表記は万死に値しますね。
時々同一アルバム内で欧文とカナの表記が混在していて悶えることも。

投稿: ヤザキ | 2015年2月10日 (火) 00時42分

初めまして。私も共感です!

iTunesの入力項目に無い編曲者の名前をその他コメント欄的なところに入力したり、1曲ずつBPMを取って入力したり…私も結構手間がかかっています。

それと、ジャンルの表記がカタカナになってしまう問題(Rockではなくロック、等)も頭痛の種です。

投稿: ねこ(7kg) | 2015年2月11日 (水) 00時46分

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